全く予期せず突然ある記憶がよみがえる。
理由はこの地上のどこかにあるのだろうが、それはわからない。
高校時代の英語の選択授業で学んだ、英国の詩人アルフレッド・テニスンの短編小説。
「イノック・アーデン」
ただ、その短編小説を訳し続けるという授業。3年生の時。授業担当はKODAMA先生だった。
ホネとかヤマサとかタクアンとかコヤQとかそんな連中と一緒にこの授業を受けていたように思う。
小説の主人公はイノック。大西洋の海辺の小さな村で水夫として暮らしている。幼なじみのアニーと結婚し子供も3人生まれた。
ある日、大きな仕事が舞い込んできた。中国への仕事、1年以上の航海となる。イノックは思い切ってこの仕事にのることにした。
仕事は大成功だったが、帰路嵐に合い、船は沈んでしまい、無人島に漂着する。船員の中でイノックだけが生き残った。しかしなかなか助けの船が近くを通ることもなくやがて10年以上が過ぎた。
村ではすでにイノックは生きて帰ることはないと思われていたが、妻のアニーだけはイノックがどこかで生きていて必ず帰ってくると信じ続けている。
そんな話だ。悲しすぎる。
もう一人の幼なじみフィリップがアニーとその子供たちの支援を続けた。子供たちを学校に通わせ、生活のすべてを支えた。そしてフィリップもまた昔からアニーを愛していた。内気なフィリップはそんな気持ちをずっと抑えたまま10年以上アニーを温かく見守り、援助した。
アニーとたまたま二人きりなった時、フィリップは思い切ってアニーに自分の気持ちを打ち明ける。がしかしアニーはその気持ちを受け取ることが出来ない。1年待ってほしい。あと1か月待ってほしい。あと1日だけ待ってほしい。そんな宙ぶらりんの日々が延々と続くことになる。
フィリップもだんだん、なんだかバカにされてるような気分になってくる。そんなこんながあったけれど、二人はついに結婚する。幸せに暮らし始める。
そんな時にイノックが、イノック・アーデンが村に戻ってくるのだ。変わり果てた姿で。村では誰も彼がイノックであるとは気づくことはない。当然自分のかつての家に向かうのであるがそこにはもうすでに家はない。そしてアニーとフィリップのことを耳にする。二人が幸せに暮らしていることを。子供たちが立派に成長していることを。
そんな話だった。せつなすぎる。
高校生の俺はどうしたらいいのだろうと考えた。もし俺がイノックだったらと。真剣に考えた。名乗り出るべきなのか。俺がイノック・アーデンであると。
答えは出なかった。そして今でも答えは出ない。明日になっても答えは出ないだろう。
もし興味をもったら読んでみてください。短い小説なのですぐ読めると思います。
高校生の頃、高校生の時に考えたことはすべて忘れてしまうのだろうか、と考えたことがある。大人たちはみな、高校時代のことなんてすべて忘れているみたいに思えたからだ。
まあそうでもないみたいです。
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